過去三

『偽りの音』 語り手・ラギ

 Cis.3 本編が始まる数週間前の話
 (2021年あまぶん444書『雨』投稿作『ラギの話』)

ザーザー

 画面は黒と白の雨。何も映らない。
 教育チャンネルにすれば映像がつくのだろう。だが、その手は使いたくない。履歴をつけたら最後、通知が大量に届いて、面倒なことになるって知っている。

ザーザー

 ついにこのチャンネルもダメになったか。舌打ち。
 接続に失敗する度、流れる画面は、雨に似ている。
 いや、本物の雨はこんなものじゃないかもしれない。でも一年も部屋にこもっていれば、色々わからなくなってしまう。
 今、外はどんな天気かな。行けやしないのに、考えてしまう。もしワープできたら。そこは雨が降っているかもしれない。どうしよう、傘を持っていない。
 兄からもらった黄色い傘は、引っ越す時に、捨てられた。
 ドームに覆われたこの都市に、傘はいらないのだと。

 私の存在も、いらなかった。そうでしょう?

 壁の向こう、ヒールの音がする。
「ただいま、賢い私の娘!」
 あの甲高い声は私にあてたものではない。
 私を騙るロボットが答える前に。

ザーザー

 音量を上げる。

ザーザーザー

 聞きたくない!

ザザザザザザザザザ


 過去二 << 過去三 >> 第〇章